ある冬の晩、白くてやわらかくてふしぎな音の鳴るものが手の中にあるような気がしました。なんだろう、と考えているうちに思い浮かんだ言葉が「歌骨」です。この言葉をたよりにして十パラグラフほど一気に書きました。その組成、異世界のコミュニティでの受け入れられ方、交換の掟などです。このとき書いた部分は完成版にもかなり残されています。
それから、このふしぎな道具にふさわしい物語を見つける意識の旅がはじまりました。物語を見つけるのは地下の水脈を探るのに似ています。まちがった方向を選ぶと、すぐに行き当たってしまいます。物語が真に求めるラストまで行き着くことのできる水脈を見つけるには、精神の地層を注意深く探らなくてはいけません。理不尽なほど時間のかかる作業です。書いては書き直し、もだえながらすすみました。童話のようなSFのような不思議な世界が陰影を持ちはじめました。
小説「歌骨」はそのようにしてこの世に形をとることができた物語です。みなさんに異世界の旅をお楽しみいただけましたら幸いです。
2011年2月22日 立華ノリ美
「歌骨」のダウンロードはこちらから(試し読みもできます)
http://p.booklog.jp/book/21060
定価300円